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スキマスイッチについて語るブログ。 正しくは「釦」なんだけど、語呂の問題。
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☆★警告!!★☆

 『脳内変換シリーズ』とは、スキマスイッチの楽曲を聴いたイメージから、当ブログの管理人が書いているショート・ショート(短編小説、もしくは短い小話)です。要するに「この曲を聴いた私の頭の中には、こう言うストーリーが浮かんでいるのです」と言うことで、こんなカテゴリ名になっております。
 飽くまで、個人の勝手な想像やイメージに基づいております。これらの趣旨に賛同できない方や抵抗のある方は、閲覧をご遠慮いただきますようよろしくお願いします。
 閲覧後、不快感を抱かれたとしても当方は責任を負いかねますので、苦情、中傷、荒らし等はお断り致します。

 念には念を入れて、反転しています。面倒で申し訳ありませんが、気が向いた方は騙されたと思って騙されて下さい(←ダメじゃん)。怖いもの見たさや好奇心は、身を滅ぼします……。


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「夏名子(かなこ)」
 切符を手にした彼女が、通り掛かりに目にしたポスターの前に立ち止まる。風光明媚な観光地の景色を、春夏秋冬ごとに同じ場所で写しているそれを、うっとりと見上げる。
「良いよね」
「何が?」
 諒介(りょうすけ)の回答が不満だったらしく、彼女は「ロマンが足りない」と嘆いた。
 先を促すように手を差し出すと、夏名子の手が彼の手にすっぽりと収められる。白い手の先はほのかに染まり、ひやりとして体温を分け合う。つい先日ばっさり切ったばかりの髪が落ち着かないのか、空いた方の手でうなじの辺りをしきりに気にしている。諒介は夏名子と、夏名子の亀のような濃いカーキ色をした大きなボストンバッグを持っている為、もしも今この階段で転んだりしたら一番下まで転げ落ちると思う。小柄な彼女の腕力では、自分を支えられない。それも良いかと思おうとしたけれど、痛い思いをするのは御免だった。それを言い訳にするのも、例え今更であっても格好がつかない。
 ベージュのトレンチコートの背中に結んであるベルトと、コートに半ばかくれている水玉が散った紺のスカートの裾が、歩く度にリズム良く揺れた。かかとの低いチョコレートブラウンの靴が、彼の履き潰したニューバランスのスニーカーを追いかけてくる。
 とうとう最後の最後まで、誰にも、1度も「行きたくない」と口にすることはなかった夏名子に、諒介は畏怖に近い称賛を抱いていた。相変わらず兄のことが嫌いらしい妹のみはるなどは、「信じられない」「ばかばかしい」と一蹴して、すぐにそのことは忘れたらしかった。少なくとも、それ以後彼女がその話を俎上に上げることはない。
 階段を上ると、地下街の電灯とは違う眩しさが、既にオレンジがかった夕暮れ時にもかかわらず目の奥を刺激した。キヨスクでちょっと高いポッキーと温かい烏龍茶を買い、彼女に渡す。自分の分の缶コーヒーは、ジャケットのポケットに突っ込む。繋ぎ直した夏名子の手はもう冷たくはなかったけれど、缶コーヒーのせいで熱を持った諒介の手のひらは、やはり彼女を温めた。
 並んでホームに立つと、溶け合ったように寄り添う影が足元に伸びる。春にはもう少しだけ早い肌寒さを感じさせる風が、緩やかに頬を撫でていく。腕時計を見るのはわざとらしい気がして、次の電車の時間を知らせる電光板の横に設置された丸い時計を、ちらりと盗み見る。形が似ているだけに、授業の終わりを待つ小学生のようだと思った。
 ちらりと、夏名子のことも盗み見る。そわそわと落ち着かない自分と違い、彼女は一定のリズムで呼吸を続けている。緊張で呼吸が浅くなり、それを取り戻すかのように深呼吸をすることもなければ、繋いだ手が汗ばむこともない。いつもの夏名子だ。――彼女がいつもの彼女なのだから、諒介の考えていることなどお見通しなのかもしれない。そして、いつもの奥ゆかしさと大らかさで、気付かない振りをしてくれていうだけかもしれない。
 用意していた言葉は、跡形もなく消えてしまった。残された時間の少なさと、何も変わらない夏名子を前に。
 あまりにも少ない。彼女の手を物理的に温めることくらいしかない。
 現実が厳しいことは知っている。けれど、これほど乖離した時間も現実なのだと言うことは初めて知った。懐かしさのオブラートに包まれた過去の、薄絹のようなヴェールの掛かった未来の、何と甘やかなことだろう。
 沈黙は他人のように優しかった。けれど、何も変わらない。
 不意に、響いたベルの音が鼓膜を強く叩く。安っぽいスピーカーからひび割れた声が流れ、ホームへの電車の接近を知らせる。弾かれたように顔を上げると、手を離した夏名子が身体を少し屈め、ボストンバッグの肩紐を身体に通していた。荷物の加重が、コートの小さな肩に皺を寄せる。
 夏名子もまた、何も言わなかった。諒介を見上げてぽつりと微笑を見せる。
 現実は厳しいだけでなく、残酷で呆気ない。
 たったこれだけのことも叶わない。
 「夏名子」と、そのまま背中を見せた彼女の名前を呼ぶ。掴んだ腕を引き寄せ、華奢な身体を抱き締めた。何の意図もない。霧散した言葉も、沈黙の時間も、何処かへ流れていってしまった。彼女も行ってしまう。
 腕の中の彼女の体温と香りが、感覚を圧倒する。自分自身はもう、何処にもいけないような気分になった。呼吸を忘れた肺が、酸素不足で焦げ付く。
 夏名子の腕がゆっくりと動き、諒介の背中に廻される。ぎゅっと懸命に伸ばした手に力を込めてみせて、けれどその感触の違和感に彼の方が腕の力を緩めた。生じた空間の、彼女の表情を見る。
「諒ちゃん」
 眩しそうに目を細めて微笑む彼女が、いつものように名前を呼ぶ。いつもの朗らかな声で。
 彼女の手にはいつの間にかほどいたトレンチコートのベルトが左右それぞれに握られていて、それが諒介の背中で交差している。掴んだ両端を引っ張ると、彼が作った空間がたちまちなくなる。2人ごと、ラッピングされるみたいに。本当は結んでしまいたかったらしいけれど、さすがに長さが足りなかった。
 腕に収まってしまった夏名子の身体をもう一度抱き締めて、彼女がベルトを持ったままの手でそれに応えた。
 警告のように、再びベルの音とアナウンスが聞こえる。生ぬるい風と機械油の臭いと共に、電車がホームに滑り込んだ。扉が開き、乗客がまばらに吐き出されていく。
 夏名子が手を放す。ゆっくりと、確信的に。
 いつまでも捉えておく訳にもいかなくて、諒介もまた、彼女から離れた。最後に、その白い頬に手を添えると、一度だけ慈しむように彼女が目蓋を伏せた。
「じゃあね」
 真っ直ぐに諒介を見つめて、彼が言えずにいた別離の言葉を口にする。的確で、相応しいそれに、彼は抗いたかった。諦めなくて良い。「信じられない」「ばかばかしい」と言ってしまえば良い。
 他の乗客が乗り込んでから、入り口を塞ぐ位置で夏名子が振り向く。手を振ろうとした彼女を、けれど諒介はその手を掴んで制した。もう片方の手ををひんやりとした柔らかい頬に延ばし、その目尻を親指で擦った。彼女は泣いてはいなかったから、その指先にしずくが触れることは無かったけれど、それでも彼は涙を拭うように指を動かした。苦渋を堪えるように唇を噛み締める自分と、不意を突かれて息を飲む彼女を前に、本当に泣きたかったのはどちらだったのかわからなくなる。
 ただ切実に必要なのは、ここにしかないものだった。
 他には何もない。光のように、水のように、空気のように。その存在が。
 言葉がこぼれた。
「ありがとう」
 君がいなければ、知ることのなかった喜びを知った。君に出会わなければ、得ることのなかった幸せを感じた。
 何処にいても、何をしていても、君を守れるように。
 ――覚えていて。
 過去も未来も現在も、君に向かって流れていく。「いつかきっと」は奇跡でないから。
 空気が抜けるような音と駅員の吹く甲高い笛の音が、最後の時を知らせる。少し後ろに下がると、2人の間を扉が隔てた。ガラス窓に張り付くようにして、夏名子が諒介を見つめた。震える唇の端を上げ、やっぱり小さく手を振った。
 諒介は、走り出した電車を追ったりはしなかった。夏名子は、泣き顔なんて見られたくないだろうから。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 
 諒介は当初「奏一郎」と言う名前でしたが、あんまりにもそのまんまなので止めました。しかも、未成年と中年手前くらいの設定(笑)。書いていたらイメージが変わってしまって、結局は同級生くらい。
 私自身が絵心ならぬ音心がない為、歌を歌うようなキャラクターにはやはりなりませんでした。不器用で情けなくて小心者。
 その他濁しに濁した舞台背景や設定等は、ご想像にお任せします(←放任)。どうでもいい設定としては、「硝田夏名子(しょうだかなこ)」と「児玉諒介(こだまりょうすけ)」と言う名前があり、諒介が何故妹に嫌われているかと言うのも、この話には全く関係のないところで設定があります(笑)。ホントにどうでも良いな……。

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